反貧困

という本を読んだ。「派遣切り」や「雇い止め」という言葉が横行する中で、漠然と貧富の格差や非正規労働者の大量失業が重大な社会問題になりつつあることはわかるのだが、実際どれぐらいの人が生活に困窮し、食うに食われぬ生活を送っているのか、しっかりと認識しておくべきだと思ったからだ。

感想としては、日本のセーフティネットがこんなにも脆弱なものなのかということを知った。本著では、日本のセーフティネットは主に3層にわかれており、雇用のセーフティネット社会保険セーフティネット、公的扶助のセーフティネットがあるという。その3層すべての欠陥部分が同じであり、いわば3層の同じところに穴が開いており、一度セーフティネットから転げ落ちたとしたら、最下層まで滑り落ちていういわば「すべり台社会」が現代の日本の現状であるという。つまり、派遣労働の解禁などにより、正社員ではなく、生活していくのに十分な所得を得られない非正規労働者が増えたことで、雇用のセーフティネットが崩れ、さらに、非正規労働者は、雇用保険にも加入していない場合が多いため、失業手当を受けることができず、公的扶助である生活保護でさえ、自治体の不親切な対応によりまともに受けられない状況にあるということだ。一度、職を失うと、生活さえままならない状況にすぐに行き着いてしまうということであることがわかった。

はっきりいって、一刻も早く行政や社会がこの問題に対処していかなければいけない現状にあると思う。非正規労働者の割合は労働者の中で約3割を占め、日本も含めた世界的な経済状況が悪化する中で、派遣・請負会社でつくる業界団体の試算では、少なくとも3月末までに40万人の非正規労働者が解雇されることがわかっている。このままでは、生活に困窮して、ホームレスになる人、自殺を選択する人など、最低限の生活ができない人が大量になることは目に見えている。

自己責任論と一蹴することもできるが、非正規労働者の中には、教育を受ける機会がなかった人、家庭の事情ですぐに高卒で働かなければならなかった人など、貧富の差が世代間で連鎖している場合もある。

一刻もはやく、自己責任論とそうでない場合の線引きをし、また、貧困層の実態を把握し、それに見合った対策を行政はとるべきである。政府は、非正規労働者に対する雇用保険の見直しを始めた。失業保険を受給できる条件を緩和することを検討している。一刻も早く、そのような対策を講じ、その対策から得た教訓や問題点を改善し、さらなる強固なセーフティネットへの確立を急ぐべきであると思う。まだまだ、雇用のセーフティネット、公的扶助のセーフティネットなど改善すべきところは多い。

そして、そのような危機的な現状をつぶさに伝えていくことで、マスメディアは社会が変わる、問題提起をする役割を果たせると思う。

反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書)

反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書)