池澤夏樹について

池澤夏樹ほど、書くという使命を敢行しようとしている作者を僕は知らない。彼は、著書「静かな大地」では、アイヌの文明、生活が本土からの開拓によって喪失していく過程を描いた。アイヌが持つ慣習、規範がどれだけ現世で有効であるかを、失われていくことによって如実に訴えた。無駄な狩猟はしないこと、争いは徹底した論議で解決することなど。さらに、彼は、9.11以降世界が誤った方向へ進んでいることを常に文章によって配信し続けてきた。文学的手法で、しかも、現代社会にとっても有用なことを表現している作品は少ない。だから、僕は池澤夏樹が好きだ。単なる娯楽小説でもなく、堅苦しい文学でもない、フィクションによって、現代社会への警鐘を鳴らす、最も必要とされるべき文章だ。理系出身ということで、物理学や工学に関する記述が多いということも好感が持てる。そして、彼の時代を読み、それを表現する姿勢を見習いたいといつも思う。