ぶらり横丁

サークルの引退日。徹夜明けで、梅田まで原稿を届けに行った。そして、その帰りに3、4人で何となく入った立ち食いうどん屋。もうこうやって飯を食うのは、最後になるのかな。そんなことを思いつつも、徹夜明けの頭では、気の利いた話題も思いつかず、黙々と食べた。


その店が、今僕の行きつけになっている。エントリーシートをぎりぎりまで粘って梅田の中央郵便局にまで出しに行く。そして、張り詰めた緊張が解けると同時に、空腹感に襲われる。とりあえず何か食ってくか。となったちょうど帰り道にあるのである。その名もぶらり横丁。


阪神タイガースの旗、小汚い暖簾、赤の丸い椅子、人情のあるおかみさん。どこか懐かしい。オールウェイズ三丁目の夕日的な風情がある。まあ見たことないんやけど。


僕は、その横丁の雰囲気と店員さんが好きだ。一人で黙々と食べていると、にっこりと笑って話しかけてくる。「おいしい?ゆっくり食べや」と。僕は、顔が引きつっていないかと心配しながら答える。「おいしい」と。


それだけと言えばそれだけなんやけど、僕は、その短いやり取りが好きだ。料理を作ってくれた人に対する少しの感謝と料理を食べてくれる人に対する少しの感謝の発露。やっぱり心地いい。


店内から暖簾の下を見ると、地下通路をスーツと革靴の組み合わせ、スカートとブーツの組み合わせが、動く歩道をさらに歩いている人達ぐらいのスピードで流れていく。僕はセーターに大きめのズボンにエコバック。どうも、こっちの方が似合っているみたいだ。


帰りながら、考える。でも、梅田にモダンなカフェやレストランが溢れているから、僕は横丁や古書店を気に入っているのであって、もし、梅田に横丁と古書店しかなかったら、あんまり気に入らないんだろうと。要するに僕なただの反体制派だ。そんなことを考えながら今日は家の前の銭湯に行こうかなと思うのである。


毎日毎日家の前で、おっちゃんは一日かけて薪を鉈で割っている。おっちゃんはいつも僕に今日は暑いか寒いかのどっちかの感想を漏らす。昔ながらの銭湯。でも銭がねえ。