災害本

共同と読売の筆記試験通過の連絡。共同の次ぎの面接は、東京。4月に入って本格的に新聞社の採用が始まった。

研究室も決定し、念願の医療ロボットを研究できることとなった。これまで、順風満帆かと思いきや、先日


新聞記者を目指す友人からの電話。「もう帰った?」


「どこから?というか今家出たとこやけど」


「今日産経の筆記試験やで」


「ん?ん?何て?」


「今日産経の筆記やってんで」


「ぎゃふん」


といった按配で、無念にも産経新聞の筆記試験は無断欠席。まあ、しょうがない。早く切り替えないと、次の試験に響く。


最近は、震災関連の本を読んでいる。柳田邦男編の「阪神・淡路大震災10年」と額田勲の「孤独死」が参考になった。


阪神・淡路大震災10年」は、阪神淡路大震災発生から組織された、市民ラジオなどのNPO、NGOなどの市民団体の活動が紹介され、一度疎遠になった、被災地が地元住民同士、地域間で新しい関係を構築していく様子が描かれている。それに加え、新潟中越地震阪神淡路大震災の教訓が生かされているのか、中越地震で、明らかになった、災害弱者について考察している。

孤独死」では、震災後に建設された仮設住宅地区に診療所を構えた作者が、4年間の診療経験から、孤独死の背景に潜む災害弱者の実態について考察している。患者一人一人の過去や病状を詳しく紹介し、孤独死を単なる無味乾燥な言葉としての孤独死として、扱うことなく、徹底的に患者に密着し、記述している。それによって、高齢、低所得、ストレスなど孤独死する人々に共通する境遇や社会的背景をあぶりだしている。


印象的なのは、両作品ともに、現代の社会構造、システムが、高齢者や慢性患者、低所得者に厳しいものだという潜在事実が、阪神淡路大震災で一気に表層化したということでは一致しているということだ。具体的に、災害弱者は、生活基盤の住まいやまちが破壊されると、身体的にも精神的にも経済的にもダメージが大きく、自力で生活し人生を立て直していくことが困難になるということを明言している。「孤独死」では、丹念に診療所を訪れる患者を追うことで、その事実に迫っている。


そして、「阪神・淡路大震災10年」では、その事実を新潟中越地震でまざまざと見せつけられたと著者は語っている。
新潟中越地震では、避難所での、狭くプライバシーのない生活に耐えられなくなり、車内生活を送り、エコノミークラス症候群にかかり、死亡した被災者が多くいたこともその一例だ。


このように、大規模災害は、毎日経済的にも、ぎりぎりの生活をしている高齢者にとって、家の再建についてのストレスで、病状が悪化したり、医療費が払えず、適切な治療が受診できなかったり、仮設住宅暮らしで体を動かさなくなり、身体機能を悪くしたりと、社会構造が、高齢者、災害弱者にとって、厳しいものであることがわかった。


これらは、行政が改善すべき所が多いと思う。例えば、被災者が、家の再建を補助するための支援金、適切な治療が受診できるような医療制度、ストレスを解消するための、集会所などの建設・・・。しかし、自治体の財政も潤沢でないこの時代に、行政に全てを押し付けるのは、酷である。そこで、それらの問題を解決する一助となるのは、「孤独死」で紹介されていた、仮設住宅の居住者が、互いに連携を取り、近所、隣人の健康を気遣うという仕組みだと思う。事実そのように、隣近所が親密な関係で結ばれている仮設住宅地区では、孤独死がなかったという。第三者が介入する場合どうしても、サービスを享受する側に負い目が生じると思う。しかし、被災者同士で連携を取る場合は、互いの境遇を熟知しているので、スムーズに健康確認などが行えるのではないだろうか。ある仮設住宅では、ボランティアが毎日健康確認して回ると、「毎日来なくても、元気やわ」と怒鳴り返す被災者もいたらしい。

さらに、柳田氏も挙げていたが、事前に地域において避難場所や危険地域を示した「防災地図」の作成、情報の共有も必要だと思う。

では、行政が担うべきところは何か。それは、耐震工事の可能な限りの支援と災害時の適切な医療サービスの確保であると思う。耐震工事や住宅の再建などは、巨額の資金を必要とするが、特に耐震工事は、災害の被害を軽減するために最も有効な手法の一つである。耐震工事が適切に施工されていれば、阪神淡路大震災の被害は31分の1であったという試算がある。そして、耐震工事を必要とする住宅は、戦後に作られた新耐震基準を満たさない老朽化した住宅だ。そのような住宅は、劣悪な状態であるため、低賃金
で、そこには、低所得者など、災害が発生するとたちまち生活に支障をきたす人々が住んでいる。やはり、行政が支援するべきではないだろうか。
現在、神戸市は、2015年度までに全市で住宅耐震化率95%を目指し、05年から無料で耐震診断制度を導入し、さらに2月からは、オープンハウス事業と称し、耐震工事中の住宅を公開している。神戸市の現在の住宅耐震化率は84%。

国は、住宅の耐震化率を、2007年から10年間で現在の75%から90%に引き上げることを目標としている。現在、全国の住宅、マンション4,700万戸のうち、約25%に相当する約1,150万戸の耐震性が不十分であると推計している。木造戸建住宅では、総数約2,450万戸のうち、耐震性が不十分なものは、約1,000万戸で、約40%に達する。神戸市や東南海地震を想定している静岡県などは、耐震工事の告知に心血を注いでいる。一方で、制度を有効に運用していない自治体もある。阪神・淡路大震災の9割の犠牲者は住宅の倒壊などによる圧死だったといことを肝に銘じるべきだと思う。


最後になるが、本を読んで、「孤独死」の著者のように、仮設住宅で、医療サービスを提供し続けることは非常に意義のあることであると思った。仮設住宅という本当に目と鼻の先に診療所を構えることにより、短時間で、病状を判断し、入院を促すのか、治療するのかなど適切な治療を患者に施すことが可能であった。本当に、災害弱者の窮状を救うということを効率よく実践していると感じた。





阪神・淡路大震災10年―新しい市民社会のために (岩波新書)

阪神・淡路大震災10年―新しい市民社会のために (岩波新書)

孤独死―被災地神戸で考える人間の復興

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