3度の経験から得たもの

能登半島地震被災地の石川県輪島市へは、これまでに3度行った。3度行って感じたことをは記す。

1度目は、地震発生直後に現地にボランティアをしにいく学生を取材しに行った。現地では、今までの人生で経験したことのない衝撃を受けた。柱が傾いた家、一階が潰れている家、ブルーシートで覆われた家・・・。家というものは整然と建っているものだという固定観念があったが、そんなものは一瞬にして吹き飛んだ。そして、避難所にいる被災者の「夫にも先立たれて、家が倒壊して、もう生きている意味なんてない」という言葉。震災、災害というものは、一瞬にしてこれまでの生活を台無しにしてしまうものであるということを知った。家を失うということは、想像すると恐ろしいことである。これまでの生活の基盤が一瞬にしてなくなってしまうのだから。被災者が抱く絶望感は計り知れないものであると感じた。そして、その被災者に対して何もできない自分に無力感を感じた。
1度目の訪問は、そんな震災の残した爪跡に打ちひしがれた経験だった。

2度目は、地震発生から約一年後に、被災者に足湯を行う学生らを取材するという名目で、輪島市山岸町の仮設住宅に行った。足湯は盛況だった。震災から一年経ち、家を失った悲しみからも立ち直り、仮設住宅の生活にも慣れてきたのだろう。足湯に訪れた被災者らは、笑顔を絶やさなかった。しかし、ある被災者に暮らしぶりを尋ねてみると、やはり、苦しいものがあるといことだった。仮設住宅では、雨が降れば、薄い屋根のため、轟音がする。隣の入居者の迷惑にならないように、テレビの音声は小さくし、話し声も小さくする。そんな環境で、2年生活しなければならないのだから、やはり、不満は言い出したらきりがないという、しかし、自分達は支援される側だから、不満があっても負い目があって言えないということだった。それを聞いて、復興のあり方というものに少し疑問を抱いた。2年間住むにしては、仮設住宅という環境は劣悪しすぎやしないか。家の再建や公営住宅への入居を考えると、電気代を節約しなければならないため、冷房や暖房は使わない。そうなると、夏は暑く、冬は寒い。そして、ほとんど地べたで寝ているようなものだから、便秘になったり、肺を悪くしたりする。被災者は、支援に感謝しながらも、身体的にも経済的にも苦しい状況にあるということを知った。そして、そこで思ったのは、そういった、被災者の抱える問題や被災者の本当の声を伝えることで、被災者の役に立っていきたいと思ったことである。地震発生直後の自身の無力さから、どうにかして、被災者の役に立てることをやっていきたいと思っていた。そして、そういった被災者の本音を聞いて、そういった被災者の声を伝えることで、新しい支援策ができたり、行政の対応が変わったりするのではないかと思った。それこそ、自分ができる被災者への援助なのではないかと思った。そういうことを感じたのが、2度目の訪問だった。

3度目の訪問は、また1度目、2度目とも違っていた。仮設住宅の入居期限は2年までである。だから、地震発生から約2年後に行った輪島市山岸町の仮設住宅では、公営住宅への入居の手続きなどで、被災者の苛立ちを直に感じた。公営住宅に入居するのに、敷金、礼金、連帯保証にの所得証明書までいることが、入居の約一ヶ月前に知らされ、手続きができない可能性の出てくる被災者が出てくること、収入が年金だけなので、家賃を払っていると、生活費がほとんど残らない高齢者がいることなど、公営住宅入居に関する手続きや入居後の生活の問題が一気に噴出している感じだった。そういった話を聞いて、行政が、被災者の精神的も経済的にも苦しい現状をあまり理解していないのではないかと感じた。行政側の意見を聞いてみるのも必要だとは思うが、震災は、交通事故と違って原因者負担がない、だから、被災者生活再建支援法により、自宅が全半壊すれば、支援金が得られるが、基本的には、自助努力で生活を再建していかなければならない。そういったことを勘案すると、敷金、礼金は無くすなどの行政の対応が必要なのではと感じた。そういった現状も、被災者がこんな問題を抱えているということを記事にすれば、行政の対応が変わったり、新たな支援制度ができるのではないかと感じた。そういった意味でも、被災者の現状を伝えることには意味のあることだと思ったし、何よりも、被災者が「自分達は不満があったも、負い目があって言えない。でも、本当の声を伝えて欲しい」と言っていたのを聞いて、そういう社会的に弱い立場にある人は、経済的にも、身体的にも困窮していたとしてもそれを訴える術を持たないこともあるということを知った。そういった人達の声を伝えることは、メディアが担う役割であると思った。現在問題となっている、派遣切りや雇い止めにあった人たちも社会に訴える術を持たない。でもそういった社会的に弱い立場にある人たちの声を伝えるで、その人たちがかかえる問題が解決されることは往々にしてありえると思う。現に、政府が200万人の雇用創出を目標とする施策を打ち出しているのも、メディアが派遣切りや雇い止めを社会的に伝えたということに一因があると思う。だから、自分も社会的に弱い立場にある人が抱える問題を社会の橋渡し役として伝えることで、人の役に立っていきたいと思うし、具体的には、災害が発生すれば、被災者の抱える問題を伝えていきたいと思った。これが、3度目の訪問で得たことだった。